絶望先生

久しぶりにバイト行ってきた。本当に生徒というのはこちらの期待をことごとく裏切ってくれるものだ。そもそも期待するから裏切られるのであって、その期待だって実に勝手なものなのだけれど、でも彼らに期待しないことはこの仕事を全否定することにも等しい。やはり彼らに期待しては裏切られ、たまにそれに応えてもらえるその悦びが快感だから、この受験というイベントに卒業後も関わりたい人間が後を絶たないのだと思う。そしてもちろん僕もそのうちの一人。
僕は今日、8/9以来の出勤だった。その9日の日に、今年よく面倒を見ている双子の兄弟に単語をちゃんとやるように言い聞かせた。彼らの志望のレベルは私大で言えばMARCHあたりなんだけども、正直現状としてそんなレベルではない。今のままだと名のある大学に行けるかどうかさえ不安だ。だから前に会ったときに、こう言い聞かせた。
「次俺が来るのは30日になっちゃうんだけど、お前らそれまでにシス単*1の1〜1200は完璧にしとけよ。テストやるから。この1〜1200までっていうのは一般にセンターレベルって言われるところで、ここまで完璧にすればかなり読めるようになるから。語彙レベルで言えばね。でも逆に言うとここまですらできてなければ絶対読めないよ。もちろんたまに単語全然やってないくせにやたら英語読める奴とかいるけど、そんなのは類い希で、自分がそれに当てはまってるかどうかなんて考えるまでもなくわかるだろ。とりあえず30日に1200語の中から100語選んで出題するから、少なくとも9割な。これ出来なかったときはもうないと思え。もう正直遅れてるよ。でもこの夏でここまでやればまだなんとかなるから。もし出来なかったときには浪人かへっぽこ大学行きのどっちかだと思えよ。『模試で何割取れなかったら』っていうのは当日の体調とかあって出来なかったって言う言い訳もできなくもないけど、単語なんていうのはそういうのが関係ないからな。やったかやらなかったかだ。」
こんな感じで言った。結構厳しめに言った気がする。でも彼らにとってはその方がいいって思った。僕としては単語さえちゃんとやってくれれば勝算はある。所詮チューターの僕が彼らに教えてあげられることっていうのはごく限られたことだけど、それでも単語さえやってくれればっていう思いはあった。それなりの根拠もある。
だけど逆に言えば単語もやってくれなければどうしようもない。どんなに優れた講師でもきっと無理だろう。英語を読むのは彼らなんだから。ましてや僕じゃそんな彼らをどうすることもできない。
しかし彼らは裏切った。約束の9割には届かなかった。いや、それどころかその点数は半分にも満たなかった。
そう、確かに僕の期待は勝手なものだ。講師の先生方が抱く期待とはまた違う。僕は所詮「受付にいるお兄さん」に過ぎない。ただ、それでも僕は彼らにいい思いをして欲しいと願う。僕があの椅子に座っている限りは、彼らにいい結果を残して卒業して欲しいと思う。
でも僕のそんな想いというのはやはり「勝手なもの」に過ぎないのだろうか。
期待するから裏切られる。でも僕は期待せざるを得ない。では僕は裏切られ続けなければならないのだろうか。
僕の声は届かない。

*1:うちの塾ではシス単を推薦してる関係でほとんどの生徒がこれを使っている