「だって別れたくないもん」

思い悩んだ末、ついに別れ話を切り出した。電話を通して久しぶりに聞いた彼女の声は弱々しかった。
彼女は電話口で泣きすがった。でも僕だって別れたくない気持ちは彼女同様だし、そのなかで腹をくくったわけだ。そう簡単に気持ちは戻らない。
何回「別れよう」という忌まわしい言葉を発したことか。彼女は「だって別れたくないもん」と続けた。
さすがにここまでくると不憫に思われて、とりあえず僕はもう一度考えることにした。一度別れる決心をしたものの、もう一度、考えてみようと思う。
彼女がいかに自分のことを愛してくれているかはわかった。しかしそれだけではどうにもならない問題がある。
僕は彼女の要求には応えきれない。無理だ。
彼女に与えられた選択肢は、別れるか、ただひたすら待つか。文句を言わずに。
僕だってただ偉そうにして彼女を待たせているつもりはないし、むしろ一緒懸命会う時間は作っているつもりだったけど、彼女はそれでは足りないといって、さらに僕の気持ちが足りないとした。
僕はそこまで言われたところですでに十分努力しているつもりだったからもはや別れるしかないと思った。
だけども話がそこまでくると、「別れたくないもん」。
すべてを譲ってでも「別れたくないもん」。
合理的に考えれば基本的には僕の要求が一方的に受け入れられたかたちとなったからには、再び関係を続けていくことを選ぶべきだろうけども、何せ一度決心してしまったものはそう一時の感情では動かない。
僕だってできれば別れたくない。
だから、もう一度、考えることにした。
問題はいつまでも先送りとなる。