日本は何故ギリシャにならないのか?

 最近ニュース等でよく取り上げられているように、今ギリシャが大変なことになってます。政府債務が膨れあがって信用不安を招き、その影響はEU諸国、さらには世界全体にまで拡がっています。
 その一方で、ご存じのように、我が国の政府債務残高ももの凄い勢いで膨れあがっています。対GDP比で言えば、むしろギリシャよりも日本の方が悲惨な状況とも言えます。*1
 にもかかわらず、日本はギリシャのように大きく騒がれることなく、それほどの信用不安にまでは至っていません。この場合にその国の信用度を見るにあたっては、長期国債金利の水準が一般的に用いられますが、ギリシャ国債金利が10%前後という高水準で推移しているのに対し、日本の国債は1.3%前後という超低水準で推移しています。*2この違いはどこからくるのでしょうか。ここでは、一般に指摘される内容を解説したいと思います。

そもそも財政赤字が膨らむと何がいけないのか

 借金が膨らむことが良いことではないのは当たり前のこととして直感的にわかると思いますが、財政赤字・政府債務が膨れあがるとどうなるのか、というのは現状の日本ではなかなかイメージがつきにくいと思います。そこで、国の借金が膨らんだ場合に、国の信用が揺らいでいくプロセスをまず説明します。
 まず、国の借金が膨れあがれば膨れあがるほど、将来借金を返すのが大変になりますよね。これは個人の場合と同じです。そして、お金を貸す側から見れば、借金漬けになっている相手にお金を貸すのは相当な覚悟が必要です。貸したお金が返ってこないリスクがあるからです。もちろん、借金がそれほどなくてもこのリスクはありますが、借金が多ければ多いほどこのリスクが高まります。そうすると、国の借金が膨れあがったときに、国にお金を貸してくれる人というのがだんだんいなくなってしまいます。もう少し具体的に言うと、国が発行する国債を買う人がいなくなってしまいます。そうすると、政府からすると資金調達が困難になり、今返済すべき借金などを支払うことができなくなって、結果的に財政破綻へとつながっていきます。
 一言でまとめれば、借金が膨らんだ政府の発行する国債の買い手がいなくなって、財政がまわらなくなってしまう、ということです。

何故日本は(今のところ)大丈夫なのか

 それでは何故、既に借金漬けとなっている日本は、上記のようなプロセスを辿らずに、今のところなんとかなっているのでしょうか。結論から言ってしまえば、今のところはまだ国債の買い手がいるから、ということになりますが、これを以下で詳しくみてみましょう。
 これを理解するために、まず、民間銀行*3のバランスシートの仕組みを見ておく必要があります。バランスシートというのは、日本語では「貸借対照表」といって、一般に企業等の財政状態を表します。次の図は、銀行のバランスシートを単純化したものです。

 バランスシートにおいては、左側に資産が計上され、右側に負債が計上されます。見方を変えると、右側の負債というのは資金調達手段であり、左側の資産というのは資金運用形態というようになります。
 さて、銀行の負債として代表的なものは、みなさん消費者からの預金です。「預金」が負債というのはやや違和感があるかもしれませんが、みなさんにとっては資産である預金は、みなさんが引き出そうとしたときにすぐに支払わなければならないので、銀行からすると負債となります。
 そして、みなさんから集めたお金は、もちろん一部は現金(現ナマ)の状態で持っておきますが、それでは銀行は儲けないので、これを運用することで収益をあげます。そしてその運用先として代表的なものが、一般企業に対する貸出です。つまり、企業にお金を貸して、その利息収入で銀行は収益をあげているのです。
 また、他にも株式投資国債による運用も行っています。ここでは説明の便宜上、国債のみバランスシートに載せてあります。


 さて、それでは本題に戻ります。昨今のような不況時には、個人は預金を増やします。普通に考えて、不況期に豪勢に消費する人はあまりいませんし、また、わざわざリスクのある株式投資などをする人も多くはありません。したがって、一般に不況時には民間の預金が増えて、上図でいうと、右側の「預金」が増加します。
 そうすると、バランスシートというのは必ず、右側と左側の合計がバランスしますから、右側の「預金」が増えたということは左側の何かも増えなければなりません。言い換えれば、入ってきたお金は何かしらの形で運用するし、もしくは現金のまま持っておきます。今回の単純化したモデルでいうと、右側の「預金」が増えることで銀行に入ってきたお金は、「現金」として保有するか、企業に「貸出」するか、もしくは「国債」で運用するか、という選択肢になるわけです。それではこのような場合に、銀行はどのような形で運用するでしょうか。
 まず、「現金」についてですが、現金で持っていても何も収益は生まれませんので、銀行に限らず世の中の企業は、必要最低限の現金しか保有しないのが一般的です。したがって、既に必要最低限の現金は用意してあるとすると、新しく増えた「預金」の運用先として「現金保有は適切ではありません。
 次に、企業に対する「貸出」についてですが、不況時にはこれが困難になります。というのは、不況時には企業は設備投資を削減しますから、新たに大型の借金をすることはあまりありません。不況時には、企業にとっては新たに借金をして設備投資をすることよりも、既存の借金を返済していくことの方が大事なのです。
 そうすると、残りは国債の運用しかありません。ちなみに、上で「株式投資などもある」というように書きましたが、このような不況時には銀行もリスクを嫌いますので、比較的リスクの低い国債の方が好まれます。したがって、各銀行がこぞって国債を購入することになります。
 これが、ポイントです。だいぶ話があっちこっちにいってしまいましたが、政府債務が膨らんだときに何が一番怖いか、というと、国債の買い手がいなくなること、でした。しかし、現状では、日本国内で銀行を中心に国債が需要されているのです。つまり、今のところは、なんやかんやで結局国債の買い手がいるので、政府が資金繰りに逼迫することはないのです。

結局のところ、日本は大丈夫なの?

 それでは、日本はギリシャと違うから、このまま政府債務の膨張を放っておいていいのでしょうか。当たり前のことながら、そんなわけありません。今日、経済学者の池尾和人先生(@kazikeo)がtwitterで次のようなpostをしていました。

三菱東京UFJ銀行の経済調査部の試算によると、2015年度頃から銀行預金残高が減少に転じる見込みとのこと。すると、集まった金は運用しなければならないから、国債を買うという話もなくなっていくということ。いずれにせよ、残された時間は長くてあと5年ほど。

http://twitter.com/kazikeo/status/13221279418

 これがどのようなことを意味するのかというと、次の通りです。
 2015年度頃から銀行預金残高が減少に転じる、というのは、上記で言うところの「バランスシートの右側の『預金』が増える」というのがなくなって、むしろ減少に転じる、ということです。これは、主に、高齢者が貯蓄を取り崩していくことによると考えられます。そして、右側の「預金」が減りますから、先ほど長々と説明したような、「何で運用しようか、現状では国債で運用するのが好ましいな」というプロセスもなくなるというわけです。そうすると、国債の大部分を買い支えていた銀行があまり国債を買わなくなるということになりますから、政府としては国債の買い手が見つからない!という状況に追い込まれてしまう、というわけです。
 そして、そうなっていくのが2015年度頃からと見込まれるので、少なくとも、それまでにはどうにかしなきゃならん!という話になってくるわけであります。どうにかしなきゃならん、というのは、どうにかしないと、5年後とかには日本もギリシャになってしまうよ、という話であります。


 そういうわけで、事業仕分けで歳出削減するのもいいですが、増税して歳入を増やさないとどうにもならないよ、という結論になってくるわけです。



 ・・・どうでしょうか?わかりやすく書いたつもりですが、わかりにくかったらすみません。少しでも誰かの参考になったら嬉しいです。不明な点がございましたら気軽にコメントください。

*1:09年度、ギリシャ約135%、日本約200%

*2:詳しくは割愛しますが、一般的に、信用が揺らぐと長期金利は上昇します。

*3:たとえばみずほ銀行とか、普段みなさんが一般的に利用する銀行