内部留保課税の是非

 どうも、お久しぶりです。休止宣言からわずか2週間でのupとなりますが、まぁ気にしないでくださいw別にまだ休止とかこれで復活とか、そういうのではなく、とりあえず今回記事にしておきたいことがあったので。まぁ細かいことは気にせずにw
 さて、微妙にデザインも変えて心機一転、今回更新したいことというと、タイトルの通り「内部留保課税の是非」についてです。今朝の新聞で取り上げられていまして、読んでいて「こんな馬鹿なことがあるか」と思いまして、幸い現状政府内においても慎重論の方が優勢に見えますが、ここではそもそも議論すること自体がおかしいくらいに馬鹿らしいことだということを示していこうと思います。なるべくこの手の話が苦手な人にもわかりやすく書いていきたいと思うので、是非最後まで読んでいただけると嬉しいです。

内部留保とは

 まずは、そもそも「内部留保」とは何か、正確に理解する必要があります。内部留保とは、会計用語で言えば「利益剰余金」というものなんですが、これを具体的な例を使って説明してみようと思います。
 例えば、まず、ある会社が当期に100の利益をあげたとします。この100の利益の一部は税金として国に持っていかれます。ここでは40としておきましょう。そうすると、残った利益は(これを「当期純利益」といいますが)、60となります。この60、誰のものかといえば、もちろん会社のものであり、したがって究極的には株主のものとなります(株式会社の所有者は株主)。そこで、会社はこの60を株主に配当として渡すわけですが、ただ、やはり会社運営上ある程度の余裕は必要なのでこの60すべてを配当してしまうのではなく、このうちの一部、例えば10を株主に渡します。そうすると、会社の手元には最終的に50の利益が残り、これを次期に繰り延べることができるのですが、この繰り延べた分の利益が「内部留保」というわけです。

内部留保課税の目的

 では次に、なぜ今回、この内部留保に課税しようという動きがでてきたのでしょうか。これは一言で言えば、「雇用状況の改善」です。つまり、内部留保課税論者に言わせれば、「企業にはまだそれだけお金が余っている。一方で雇用状況は悪くなるばかり。その余ったお金をもっと労働者に分配すべきではないか。」ということになります。それで何故「課税」かといえば、「内部留保には課税しますよ」と言われれば企業も税金なんてなるべく払いたくありませんから、今まで貯めていた内部留保を労働者に分配するようになるだろう、という考えになるわけです。

「利益」と「現金」のズレ

 それでは、具体的に上の主張の是非を検討してみましょう。上の主張は、前提として、「内部留保がある=企業にはお金が余っている」という考えがあります。まずこの考えが間違っているのです。結論から言うと、内部留保を構成する「利益」と、労働者に給料として支払うべき「現金」との間にはズレがあるのです。
 まず、新聞などでも紹介されている一般的な説明をします。ここでは、今朝の日本経済新聞がコンパクトな説明をしていたので、それを紹介することにします。

 よく誤解されるが、内部留保がイコール手元資金ではない。企業は稼いだお金を設備の購入や原材料の仕入れに使っているためで、内部留保と同額のお金がいつも手元にあるわけでない。大企業の内部留保に課税されれば資金の外部流出が増えて成長投資が目減りするほか、手元資金が少ない企業は、税金を支払うために借り入れを迫られる可能性もある。

 上の主張に対する反論としてはこれだけでも十分なのですが、実はもう一つ理由があります。それが「利益と現金のズレ」です。引用した日経による説明では、一応、企業が得た利益が一度現金として企業に流入してきている前提で、「しかし絶えず投資を行っているからその入ってきたお金は必ずしもあるとは限らない」という話ですが、これから言いたいのは、そもそも利益を得たからと言って企業に現金が入ってくるとは限らない、という話です。
 具体例を使って説明しましょう。例えば、今、ある企業が商品を100円で売り上げたとします。ただし、現金売上ではなく、掛け売上であるとします。掛け売上とは、いわゆる「ツケ」で、実際の取引ではいちいち現金の受け渡しを行うのは面倒なので、一ヶ月ごとなどに区切ってまとめて決済してしまうのが普通です。
 さて、話を戻しまして、企業が商品を100円で掛け売上した。話の単純化のため、当期にこれ以外の取引は一切なく、また費用は一切かからなかったとして、そうすると、当期の利益はそのまま100円。利益はあがっている。決算は黒字。しかし、今手元にその100円があるかといえば、ない。なぜなら、ツケにしたまままだそれを回収していないから。
 このように、帳簿上計算される「利益」と、実際に企業に入ってくる「現金」というのは、そもそもその性質が違うものであって、したがって、「利益があるのだからお金が余っているだろう」という議論は、会計の「か」の字もわかっていない馬鹿らしい話なわけです。
 以上の議論からわかるように、「内部留保があるからお金が余っているはず」というのは全くの間違いで、内部留保として計上されている金額を見て「これを労働者に分配すればいい!」というのは全くの的外れであることは明らかです。

二重課税の問題

 さらにもう一つ大きな問題がありまして、それは「二重課税」の問題です。これは税法上非常に重視されている原則でして、「同じ所得に対して二重に課税してはならない」というものです。今回の例では二重課税となっているのは明らかです。一度、法人税を国に納めたのち残った利益が内部留保を構成するわけですが、ここに課税しようというのならばそれは二重課税に他なりません。これをするには、それ相応の合理的な理由がなくてはなりません。*1

国内企業の競争力低下

 さて、ここで仮に、以上の議論をすべて譲歩するとしましょう。しかしそれでもなお、反論の余地はあります。すなわち「国内企業の競争力低下」です。そもそも、日本における法人税率は40%と諸外国よりもかなり高い水準であるため、民主党政権の経済成長戦略に期待されていたのはこの法人税率の引き下げです。法人税率の引き下げによって国内企業の国際的競争力を高めるとともに、また海外企業が日本に進出しやすくすることで経済の活性化も図られるというわけです。ひいては、税収増にもつながる、と。もちろん税率の引き下げによって逆に税収が増えるかどうかは、その引き下げ幅を含めた様々な条件によって左右されますが、経済が今より活性化することは間違いないでしょう。
 そのような議論がなされている中での今回の「法人税の実質増税」。いかに空気が読めていないか。これは間違いなく企業の競争力低下や海外への拠点の変更を招きますし、ひいては雇用状況の悪化をも招くでしょう。

結論

 以上見てきたように、「内部留保課税」というのは、そもそも理論的に間違ったことであるし、理論に目をつぶったとしても結果としても良いことは引き起こしません。もし、雇用状況を改善したいのであれば、まずやるべきことは法人税率の引き下げであると僕は考えています。法人税率の引き下げに踏み切れないにしても、内部留保課税という間違った選択だけはしないことをただただ祈るばかりです。


 最後まで読んでいただきありがとうございました。

 

*1:ちなみに、「同族会社」と呼ばれる会社、いわゆるオーナー企業ですが、これについては現行制度上、既に内部留保課税が行われいるのですが、これはそれ相応の理由がきちんとあります。